【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
「婚約者になってから、逆に距離を感じる」
推し活として、ランティスを追いかけていた時には、いつだって楽しくて、幸せで、満たされていたのに。今は、足りない。もっと、近くにいたくて、もっと長い時間一緒にいたくて。
「なんだか、すごく欲張りになってしまったみたい」
「キュウン」
「……ランティス様は、私に隠し事があるみたい。ラティは、それが何か知ってる?」
「キュ、キュウン」
なぜか、ブンブンと首を振るラティ。
まるで人間のようなそのしぐさ。たまたまに違いないけれど、可愛らしい。
「……ランティス様が、苦しんでいるなら、力になりたいのに。私は、信頼されていないのかな」
「ワフ……」
「ランティス様、遅いね。そろそろ、遅刻しちゃう……。また、来てもいいのかな」
すっと、立ち上がって、「また来るね?」とメルシアはラティに告げる。
さすがに、ラティに告げても伝わるはずはない。メルシアは、メモを残しておくことにした。
「行ってくるね」
「ワ、ワフ!」
メルシアを追いかけてこようとしたラティが、ふいに足を止める。
なぜか、そのまま座り込んで、追いかけるのをやめたようだ。
ラティは、しばらくの間、閉められた扉を見つめていた。
そして、覚悟を決めたように、扉を前足で開くと、風のように走り出した。