【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
なんでもなんて言葉、簡単に口にしないで欲しいと、人のいいランティスのことを心配しつつ、メルシアは、ほっと息をつく。
「ランティス様の飼い犬に、たまに会いたいのです!」
その言葉を告げた途端、ランティスは、オリーブイエローの瞳を瞬いた。
(そんなに驚くことかしら。それとも、婚約破棄されたのにあまりに図々しいと、呆れられたのかしら)
メルシアは、ランティスの飼い犬に思いを馳せる。ランティスがお茶会から去った直後に、必ずメルシアに会いに来てくれる、モフモフの毛皮の白い犬。
ハスキーに近い姿をしているが、なんという犬種なのかは、不明だ。
「せっかく仲良くなれたので、たまにでもいいから会いたいです」
そして、あわよくば、遠くからランティスを眺めたいというのは、もちろん口に出さない。
「っ……たまに、なら」
その言葉をようやく紡いだあと、口元を押さえたランティスが、「すまないが、これで失礼する」と、足早に去っていく。
メルシアは、庭園に一人、取り残されてしまったのだった。