【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
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『ワフ! ワフッ!』
遠くからラティの吠える声が聞こえた気がして目を覚ましたメルシアは、丸いスノードームのような透明なガラスの中に閉じ込められていた。
メルシアは、そこに満たされた紫色を帯びた冷たい液体に、すでに胸元まで浸かっていた。
(寒い……。寒いよ)
思わず体を抱きしめるように腕を回す。
物理的に液体が冷たいだけではない。魔力がどんどん溶けだしている。
(――――これは、まずいかも)
すでに、魔力の流れが滞り始めている。
メルシアの体は、魔力枯渇寸前まで追い詰められていた。
目の前には誰もいない。
あと少しだからと、監視が緩められたのだろうか。
(何とか、ここから出なくちゃ)
けれど、ガラスでできたドームは頑丈で、出入り口も見当たらない。
おそらく、何らかの魔法を使うか、物理的に破壊しない限りは、外に出られなそうだ。
「――――ああ。ラティが、心配する……」
もうろうとしてきた意識の中で思い出すのは、ぐるぐると心配そうにメルシアの周りをまわっていたラティの姿だ。