【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
それに、ランティスは、どんな顔をするだろうか。
ベルトルトが、凶刃に倒れた時のように、何でもないとでもいうような無表情のままなのだろうか。
それとも……。
なぜか、ランティスの泣きそうな顔がまた、一瞬歪んで浮かび、そして消えていく。
あんな顔、もうさせたくないのに……。その瞬間、急にメルシアは恐怖に囚われてしまった。
「あ……。や、やだ。ランティス様! ラティ!」
その時、傾きかけていた古い扉が吹き飛んだ。
蹴破られた扉を見つめるメルシアの瞳に、ランティスの姿が映り込む。
「メルシア!」
ガチャンとガラスが破壊されると、メルシアが浸かっていた溶液が流れ出す。
続いて、破壊されたガラスの隙間に手が差し込まれ、その腕が傷つくのもいとわずに、メルシアは抱き寄せられた。
「無事か……」
「ごめんなさい、ランティス様。……ご迷惑を」
「っ、迷惑なはずないだろう! どれだけ心配したか!」
ほのかな体温に、ようやくメルシアは、安堵した。
(うっ、でも……さすがに、魔力を失い過ぎた)
「魔力が枯渇しかけているのか。それにしては、体温の低下が異様に。…………っ、メルシア。まさかあの時に」
メルシアの様子を見て、事態を理解したランティスの顔に焦りが浮かぶ。
「完全に、魔力がなくなったわけではないから。大丈夫、です」
「やせ我慢している場合じゃないだろう」
ランティスは、メルシアを横抱きにすると、フェイアード侯爵邸に向かって走り出した。