【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
「…………そうだな、もう逃げるのはやめよう。俺が逃げ続けたせいで、君を守れなかったようなものだ」
「ランティス様?」
「すまない……。メルシアが、無事で……。無事でよかった」
きっと今、ランティスは泣きそうな顔をしているに違いない。震えた声が、そのことをメルシアに告げている。
抱きしめられた体は、徐々に体温を取り戻していく。
温かくて、幸せで、申し訳なさ過ぎて、メルシアは思わず泣きそうになる。
ベッドの上で抱きしめられているという恥ずかしさよりも、なによりも、温かくて、魔力が枯渇しかけた体はもう限界で、メルシアの瞳は半分以上閉じられる。
「く……。先に謝っておく。許してくれとは、言えないが」
次の瞬間、ランティスの体が、ひときわ強く熱を帯びる。
フワフワの感触と、変わらない温かさ。
気がつけば、メルシアの横にはラティが擦り寄っている。
まるで、もう絶対に離れないとでもいうように。
「――――ランティス様?」
「ワフ…………」
呼び方が違うとでもいうように、ラティは不満気だ。
メルシアは、思わずラティの太い首元に腕を回して抱き着く。
「ラティ」
「ワフ!」
この状況から考えられることなんて、どう考えても一つしかない。
けれど、メルシアの思考はそこでいったん区切られる。
急激な眠気と、温かい幸せ。
「ラティ……」
メルシアは、抗いがたい夢の世界へと落ちていった。