【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
塩対応婚約者の裏側
「ラティ……」
夢の中で、恐怖にがんじがらめになりかける度、フワフワの触感に心癒される。
メルシアの隣には、一晩中温かい気配があった。
「――――すまない」
ギュッと、抱きしめられて、目を開ける。
先ほどまで、確かに温かい毛並みに顔をうずめていたのに、今は逞しい腕の中だ。
「……ラティは、ランティス様だったのですね」
「……君に生き恥をさらすくらいなら、死んだほうがいいと思っていた」
「死んだらダメですよ?」
「……わかった」
人間が、犬になることがあるなんて。
聞いたことがなかったわけではない。でも、それはあくまで神話やお伽噺の話だ。
メルシアは、先ほど、ラティの毛並みにしたように、ランティスの胸元に顔を摺り寄せた。
針葉樹に咲きかけの花の香りが混ざったみたいで心地よい。
(もっと早く、話してくれたら良かったのに)