【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。

 そこまで推しへの愛を一息に言い切って、メルシアはようやく、目覚めたばかりの素直すぎる思考から覚醒してきた。

「…………あれ?」

 この状況は、どういうことだろうか?
 こんなに近く、しかもベッドの中で、推しの美貌の騎士様に抱きしめられているこの状況は……。

「え、あ! ひぇ。ひえええええ?!」

 バサリと布団をどけて、ベッドから転がり落ちると、メルシアは勢いよく壁際まで下がった。

「ど、どうして! どうして、一緒に寝ているんですかぁ?!」
「どうしてって……。メルシアが、俺の上着を掴んだまま、放してくれなかったから……」
「え? え?! ご、ごめんなさい!」
「どうして謝る? 俺にとっては、ご褒美でしかなかった」

 パチリと瞬かれた緑の瞳。
 あっという間に、真っ赤に色づいていく、丸みを帯びた柔らかそうな頬。
 その顔を眺めていたランティスが、思わずといったように口元を緩める。

「少しだけ、話を聞いてもらえるかな? たぶん、30分もすると、また姿が変わってしまうのだが」
「わ、わかりました! そのあと、もふってもいいですか?」
「――――好きにして欲しい。だが、一つだけ訂正したいことがある」
「…………はい。なんでしょうか?」

 ごくりと喉を鳴らしたメルシア。眉を寄せるランティス。

「俺は…………犬じゃない! 狼だ!」

 ――――どちらにしても、かわいいなぁ。

 緊張感のかけらもなく、能天気にメルシアはそう思ったのだった。
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