【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
初恋というには、まだ幼すぎたのだろう。
そっと手を掴んで、「遊びに行こう?」とランティスは、メルシアを誘った。
当時、メルシアはどちらかというと内気な少女だった。文官をしている父の仕事について、領地から王都に移り住んだメルシアには、友達もあまりいなくて、いつも弟とばかり遊んでいた。
「う、うん……」
おずおずと、手が伸ばされ、ランティスの手に触れた。その瞬間だ、パチッと二人の間に火花のような魔力の伝達が起こったのは。
「え……?」
「いたた……」
静電気でも起こったのだろうと、ランティスは、メルシアの手を握り直して、庭を駆けていく。
ほんの数十分もすれば、子ども同士、すぐに打ち解けて仲良く遊び始めた。
そして、事件が起きたのは、その直後のことだった。
「…………ワンちゃん!」
小さな白い犬。
厳密に言えば、それは白銀の毛をした狼の子どもだ。状況理解が追い付かないランティスに、幼いメルシアは、無邪気に抱きついてくる。
その小さな手と、石鹸の香りにクラクラとした酩酊感と、どうしようもないほどの愛しさをランティスは感じた。
それと同時に、メルシアのそばにいたくてたまらない衝動に駆られる。