【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
「ワフッ」
「あれ……。ランティスさまは?」
「ワフッ!」
ここにいると告げたつもりのランティス。
けれど、口からこぼれ落ちたのは、まるで犬の鳴き声。
それも、大した問題ではなく感じた。
少なくとも、狼の姿に変わっていた、その時は。
あとから考えれば、それはランティスの人生に最高の幸福と、あまりに大きな悩みを引き起こす出来事だったのに。
気がつけば、再びランティスは、人の姿を取り戻していた。
さっきまでの、幸せな触れ合いが忘れられないままに。
「あれ? ワンちゃんどこか行っちゃった?」
「…………メルシア、そろそろ父上たちが心配している。帰ろう」
子どもの頃から、何度か狼の姿になることはあった。
だが、ランティスにとって、それはコントロール可能なものだった。
けれど、先ほどの狼化は完全に不測の事態だった。
「う、うん……」
目の前にいるメルシアが、愛しくて仕方がない。ランティスは、今まで知らなかったその感情に戸惑いを覚えた。
「モフモフでね! 小さいお目目はお月様みたいなの。それですりよってきてね!」
しかもメルシアは、先ほどあった小さな白い犬がどれほど可愛かったのか、最初の頃の人見知りが嘘のようにランティスに語り続けるのだ。
ほどなく、二人は別れる時間になった。