【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
「また、遊んでね? ラティ」
「……ラティ?」
「うん。ランティスさまなんて、長すぎるでしょう? だから、ラティと呼んでいい?」
「そうだね。これからも、ずっと、ラティと呼んで?」
「うん!!」
幼かったメルシアには、その頃の記憶なんてないに違いない。それはランティスの初恋だった。
***
「……え? そんなに前からですか? しかも、侯爵家のご子息を愛称呼びって……」
「まだ、幼かったからな。だが、あれが俺の初恋だ。間違いない」
「えっ? は、初恋?!」
「そして、今も君に、恋している」
メルシアは現在16歳。ランティスは、19歳。
十年を優に超える時間、ランティスがメルシアのことを好きだったなんて、想像もしていなかったメルシア。
「――――君に会いたかった」
そして、メルシアが、ちょっと他に類を見ないほど犬好きになってしまったのも、白い可愛らしい犬との出会いが原因なのだ。おそらく。
そのあと、約束は果たされることはなかった。
その頃から、すでにメルセンヌ伯爵領では、魔獣発生の不穏な兆しが表れ始めていた。
メルシアは、領地に戻ることになった父とともに、王都を離れた。
魔獣の脅威にさらされながらも、騎士団の活躍や、メルセンヌ伯爵の統治力により、なんとか大災害とを乗り切ったときには、メルセンヌ伯爵領は、完全に疲弊していた。
少しでも、家族の力になりたいと、光魔法を持っていたメルシアは、王都の治療院への就職を決めたのだった。
そして、ランティスと、メルシアが再会するのは、あの事件の日だった。