【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
ブンブンと、メルシアは首を横に振った。
幻滅なんて、するはずがない。
あの時、メルシアは、魔獣の恐怖に怯えながらも、できる限りのことをして過ごしていたつもりだ。
前線で戦う騎士たちの姿に、どれほど勇気づけられたかなんて、きっとランティスは知らない。
そんな、メルシアの気持ちを知ってか知らずか、ランティスは、言葉を続ける。
「それに、苦しいことばかりでもなかった。仲間もできたしな。そうでなければ今もきっと、周囲との腹の探り合いばかりだっただろうから」
当時、ランティスが、配属されたのは、十人に満たない小さな隊だった。
だが、騎士団長の息子であり、侯爵家の人間であるランティスは、初めから隊長を任された。
その時の副隊長が、ベルトルトだった。
侯爵家で学んだ、お上品な人心掌握術なんて役にも立たず、上級貴族というだけで上に立ったと反発していた隊員たちが、次々と決闘を挑んできた。
もちろん、全て返り討ちにして黙らせたが。
それからは、隊員たちとランティスは、信頼し合い、背中を預けあってきた。
ベルトルトとランティスは、その時からの付き合いだ。