【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
「急に休むなんて、どういうことですか!」
ノックすらなく勢いよく開いた扉。
反射的に、メルシアはラティを背中に隠そうとした。
けれど、ラティはメルシアを軽く押しのけると、前に出る。
一番初めに目に飛び込んできたのは、その燃えるような色だ。
「…………お客様がいらしていたんですね。失礼いたしました」
「ワフ!」
「――――メルシア・メルセンヌ伯爵令嬢。どうか、ご無礼をお許しください」
先ほどまでの剣幕が嘘みたいに、優雅に礼をした赤毛の騎士。
その姿を、しばらくの間、茫然と見つめていたメルシアは、その名前を口にした。
「……ベルトルト様」
赤い髪が揺れる。
青い瞳が、まるで火と水のように対比して美しい。
ベルトルトは、シグナー伯爵家の三男で、ランティス・フェイアードとは、騎士団を追いかける婦女子の人気を二分するらしい。
甘いマスク。少したれ目の優し気なまなざし。
近づいたら、凍ってしまいそうな冷たい美貌のランティスとは、どこまでも対称的だ。
「お久しぶりですね。メルシア様。――――ランティス隊長と婚約されて以来でしょうか?」
「そ、そうですね? でも、孤児院には時々、来てくださっていたと伺っています」