【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
騎士は婚約者を密かに愛でる
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時は遡り、婚約破棄宣言の少し前。
午後の優雅なお茶会。
セッティングされた色とりどりのスイーツと、甘い香りを漂わせるミルクティー。
ランティスの目の前には、淡い茶色の髪に、磨き抜かれた宝石のようにキラキラ輝く緑の瞳を持つ、世界で1番可愛らしい婚約者が座っていた。
薔薇の蕾が咲き誇るのを待ち望む優雅な庭。
全てが目の前の婚約者、メルシアのために用意されている。
おそらくそんなことは知らないメルシアは、俯いてどこか憂鬱そうだ。
それはそうだろう、とランティスは思った。
メルシアは、疲弊した領地への援助を申し出たフェイアード侯爵家からの婚約の打診を、断ることができなかったのだから。
「……そろそろ時間のようだ。失礼する」
「はい。ランティス様」
メルシアが、ランティスを引き止めることはない。たとえ、引き止められたとしても、ランティスには、この場に居られない理由があるのだとしても。