【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
「ランティス様、私と一緒にいると、騎士を続けられないですよね?」
「っ……メルシア、だが俺は」
いつも、ある程度、ランティスから距離を置いていたメルシアが、ゆっくりとランティスに歩み寄る。
「うん。私決めました。ある程度距離があったときは、ラティの姿に変身しなかったですものね? 私、これからも遠くから、ランティス様を推し続けます」
「――――それは、つまり婚約を、破棄すると?」
騎士を続けられない自分には、価値がないだろうかと、ランティスの心が絶望で埋め尽くされる。
ランティスは、メルシアのそばにいるために、騎士を引退することを考えていた。
けれど、意外な返答だとでもいうように、メルシアが目を瞬いた。
「え? やっぱり、私と婚約破棄したいのですか?」
「いいや! 俺はずっとメルシアと一緒に」
「良かったぁ……。でも、ランティス様は、騎士の仕事に誇りを持っていますよね? 遠くから、見ているだけでもわかるほどです」
「メルシア、でも俺は騎士であることよりも」
メルシアが、真っすぐにランティスの瞳を覗き込んだ。
月を連想する瞳が、ゆらゆらと揺れる。
「うそつき」
「え?」
「ランティス様は、きっと後悔します。騎士を続けなかったこと」
そのまま、メルシアはもう一歩ランティスに近づき、そっと体を寄せた。