【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
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久しぶりに訪れた、騎士団の公開訓練。
黄色い声援が飛び交う、騎士様推しの聖地。
剣がぶつかり合う音。時に打ち合い、時にひたすら訓練に励む騎士の姿を一目見ようと、王都の婦女子は今日も集結していた。
「ランティス様――――!」
ここぞとばかりに、メルシアも思いっきり声援を送ってみた。
安全のため十分に距離をとっているからランティスには、きっと聞こえないに違いない。
それなのに、こちらを振り向いたランティスは、甘い笑顔をメルシアに向ける。
「きゃ――――!!」
周囲を飛び交う、婦女子たちの声。
その甘すぎる笑顔に動揺した様子で、ランティスの視線の先にいる誰かを探す騎士達。
(自分を見たのかもしれない、笑いかけてくれたのかもしれない、推し活の醍醐味!)
「レア! レアだよ、あんな笑顔。ねぇ、マチルダ!」
「…………あなたの婚約者だわ」
「え?」
「……あの人、あなたの婚約者だわ。あなたが笑いかけられたのよ、メルシア」
推し活にまい進するあまり、忘れかけていたが、あの麗しすぎる騎士様は、メルシアの婚約者なのだった。訓練中に狼になってしまったら大惨事なので、近づくことすらできないけれど。それすらメルシアは楽しんでいるのだけれど。
「でも、メルシアは、ここから眺めているだけで平気なの?」
「幸せ……ですけど?」
「相変わらず、距離感が良くわからない二人よね。フェイアード卿とメルシアって」
「そ、そうかな?」