【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。

 最高に幸せだ。間違いない。
 今、メルシアはかつてのように訓練場を訪れることが出来るようになって、充実した時間に幸せを感じている。

「今日も、元気な推しが訓練をしていて、私は同じ空気を吸っている。なんて幸せ」
「そ、そう……」

 黒い豊かな髪を耳にかけながら、若干引いている様子にも見えるマチルダ。
 そんな仕草すら、大人っぽくて、メルシアはひそかに憧れている。

 その時、訓練を終えたランティスに、ものすごく可愛い赤い髪の少女が近づいていった。
 渡された飲み物を受け取ったランティスは、その少女に笑顔を向けて、何かを話しかけた。

 ズキンッとメルシアの胸が痛む。

「……?」

 今までだって、こんな光景何度も見てきたのに、とメルシアは首を傾げた。
 けれど、ランティスが笑うなんて、本当に珍しいことなのだ。

 メルシアと一緒にいる時、最近は表情豊かなランティス。
 だから、忘れてしまいそうになるが、もともとランティスは氷の騎士様と呼ばれるほど、冷たい表情をしていることが多い。ちなみに、ベルトルトは、対比して炎の騎士様と呼ばれている。

 それなのに、なぜか赤い髪の可愛らしい少女に、ランティスが笑いかけている。

「…………そろそろ、訓練終わりの時間だよね」
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