【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
気にしてはいけないと思いつつも、気にしないなんてことが出来ないメルシアは、帰ろうと心に決める。なぜかわからないけれど、このままでは、もっと胸が痛くなってしまいそうだ。
「そうね。ランティス様も、ベルトルト様も下がったようだし、私は、昼休憩終わりだわ。メルシアは休みなのだから、ゆっくりしていったらいいと…………あら」
「メルシア!」
なぜか、勢いよく駆けてきたランティスが、メルシアに抱き着いた。
周囲の視線が痛すぎる。
意外なことに、婦女子からではない、騎士たちのざわめきで、耳が痛くなるほどだ。
「メルシア、見に来てくれたんだ。うれしい」
「――――あ、あの? こんなに近づいたら」
「訓練をしないと腕が鈍るから、休暇なのに出てきただけだ。一緒に帰るなら、十分間に合う」
「…………あの、周囲の視線が痛いです」
「あれだけ、距離を保たれてお預けされたんだ。そばにいたい」
「うっ」
(推しの騎士様がまぶしい!!)
ここで、初めて周囲の困惑に気がついたらしいランティスは、何でもない事のように「こうしておけば、虫がつかなくなる」なんて冗談を言うので、メルシアは苦笑するしかない。
そして、その言葉が、冗談などではないことを、隣にいたマチルダと、追いかけてきたベルトルトだけは察していた。