言えないまま・・・
「私がアキから去った後、ハルさんならアキのよき理解者になれる。アキを支えてくれると感じたから。」

「そんな。」

「アキはあれでいて、繊細でもろいの。だから、私が離れてからのアキがとても心配なのよ。でも・・・。」

「でも?」

「アキは自分の気持ちに気づいてないふりをしているけど、ハルさんに惹かれてる。もちろん、私とは違って一人の女性として。」

アキが・・・?

「ただ、アキは今まで本当の恋愛をしてきてないから、とまどってる。あなたへの気持ちをどう処理すればいいのか。それが本当の恋だってことも、ひょっとしたらアキ自身まだ気づいてないかもしれない。」

夏紀さんは何を言ってるの?

「もちろん、あなたが結婚していることも、彼にとっては大きな障害。初めてそれを障害と思ってるからこそ、身動きがとれなくなってる。」

「それは、アキ本人が言ってたんですか?」

夏紀さんは、寂しそうに微笑んで首を横に振った。

「いいえ、私がそう感じたの。」

「それじゃ、何の根拠もないじゃないですか。アキは私の事なんて・・・。」

「あなたと出会ってからのアキは明らかに変わったわ。私といる時、いつも寂しげで甘えてばかりだったのに、今はいつも笑ってる。何かを思い出してるような顔して、一人黙ってるときも目がキラキラしてるの。」

「それは、たぶん、仕事が順調だからじゃないかな・・・。」

夏紀さんの言葉をかき消すように言った。

「仕事?ん、それは今までもあったこと。あなたとの仕事の話をする時も本当に楽しそうに話すのよ。あなたに対してはどう接してるかわからないけど、アキはあなたの言葉をとても大切に受け止めてる。私が今までどんなに彼の心を揺り動かそうと努力しても動かなかった気持ちも、あなたに言われたことは彼の心を確実に変えていってるのよ。」

「そんな根拠のない話、私は信じません。」

こんな話、認められるはずもない。

認めてしまったら、私がおかしくなりそう・・・。

「私にはわかるの。本気で愛した人のことですもの。」

その言葉には力があった。

怖いほどの。

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