言えないまま・・・
「あなたには今ご主人もいるのに、私がこんな話をすること自体、不謹慎よね。本当にごめんなさい。」

私は黙ったまま、テーブルの上のコーヒーを見つめるしかなかった。

「でも、今の私には、アキのこと、あなたにお願いするしかなかったの。くやしいけれど。」

夏紀さんも、じっとコーヒーを見つめていた。

「夏紀さんは、それで本当にいいんですか?」

「ええ。これ以上アキと一緒にいたら、私が壊れてしまう。そして、私のせいで、ゆうきも壊れてしまう・・・。」

「・・・ゆうき君?」

「まだ話してなかったけれど、ゆうきは、生まれつき体が弱いの。最近は喘息も併発して、病院にかかることが多くなって・・・。」

そうだったんだ・・・。

「アキと会うことで、ゆうきを看病する辛さから目を背けていたのかもしれない。」

夏紀さんは苦笑した。

「自分勝手に生きている親のせいで、罪のない子供を傷けてしまう・・・これだけは親として決して許されないこと。この間、高熱に浮かされるゆうきが「お母さん」って何度も言ってる姿を見て、全てを終わりにしようって清々しいほどに気持ちに整理がついたの。今まで、私は何をやっていたんだろうって。子供を命を守らなければならない立場なのに、このままでは守りきれないことに気づいた。」

子供のいない私には、夏紀さんのその気持ちを推し量ることはできなかった。

アキへの気持ちがそんなにも簡単に決別できるなんて。

私が夏紀さんだったら、同じような判断をするんだろうか?

「ハルさん、お子さんは・・・?」

ふいに尋ねてきた。

「いえ、まだ・・・です。」

夏紀さんは、優しい表情でうなずいた。

私はコーヒーを一口飲んだ。

「いつか、きっとアキはハルさんの元にたどり着くと思う。そういう時が来ることをハルさんは心に留めておいて。もしその時が来たら、アキの全てを受け入れてとはお願いしない。だけど、アキをいい方向へ導いてあげて。」








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