言えないまま・・・
その時、私の携帯が鳴った。

アキ、からだった。

携帯を耳に当てると、直太も優花も私に視線を向けた。

こんな状態でかけてくるなんて、アキも何考えてるのよ。

しゃべりにくいったら。

「もしもし、ハル?」

「あ、はい、そうですけど。」

「どうして、直太兄連れてきた?」

その声は、セリフとは裏腹にとても優しくて静かな声だった。

それがかえって、私の心に深く突き刺さる。

でも、それを知ってるってことは、この近くにアキがいるってこと?

私は皆にわからないように、視線を泳がせた。

あ。

ロビーの一番奥の柱の後ろにアキらしい横顔が見えた。

来てたの?

「そこじゃ、言い訳もできないか。」

アキはぽそっとつぶやいた。

「俺、やっぱ今日会う気分じゃなくなった。悪いけど、適当に優花ちゃんには断っておいて。」

そこで携帯は容赦なく断ち切れた。

アキは柱の影から一瞬私の方を振り返ると、右手を挙げてそのままロビーの奧へと消えていった。
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