言えないまま・・・
「ハル?」

瞬間、アキが私の体を支えた。

温かい、アキの胸の中で私はこのまま倒れてしまってもいいって思った。

「何やってんだよ。ハル、体調悪いのか?」

「べ、別に。アキには関係ないよ。大丈夫だって!」

アキの腕から身を解こうとしたのに、体が言うことをきかない。

あれ?

私の体、なんだかおかしい?

「ハル、お前、すごく体が熱いぞ、熱あんじゃない?」

アキは急にいつもの口調になった。

「おい、ひとまずうち入れって。このままじゃまずいって。」

そう言うと、私の体を支えたまま、ゆっくりと階段を上り始めた。

「ったく。」

小さくアキがつぶやくのが聞こえる。

なんだかそのいつもの言い方にホッとした。

アキは元気だ。よかった。

どんどん力が抜けていく。

アキに支えられて何とか階段を上りきり、アキが開けた一番手前のドアの中に足を踏み入れた。

「あわてなくていいから、ゆっくり前進んで。」

私を支えるアキの手は優しくて温かかった。

アキに抱えられた私の体は、アキに素直に従った。

玄関を入り、靴をぬがせてもらい、ゆっくりと私はアキの部屋へ上がった。

こんなにも安心して、誰かに身を任せられたのはいつ以来だろう。



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