言えないまま・・・
「で、何で今日はこんなに早いの?」

話を切り替えるなら今だって思って、直太に尋ねた。

「早く帰って来ちゃ悪いみたいな言い方だな。」

「そんなことないけど・・・。」

「いや、営業で家の近くまで来たから、ついでに忘れ物をとりに帰ったんだ。」

「忘れ物?」

「うん、夕方からの会議に使う資料。それだけとったらすぐまた仕事に戻るよ。」

「会議って、今日の夜ご飯は?」

「あ、そうだな。遅くなりそうだからいらないよ。」

「はぁい。」

そんな会話をアキはほおづえをついてだまって見ていた。

「かといって、このまま長時間アキと二人っきりでいるなよ。」

直太は少し厳しい顔で私とアキの顔を交互に見た。

アキは、右手を挙げてぺこっと頭を下げた。

「もう打ち合わせはほとんど終わったから、すぐ帰るよ。」

アキはすくっと立ち上がった。
< 62 / 215 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop