トップアイドルの恋〜好きになってもいいですか?〜
病室のスライドドアが開き、入って来た母親は明日香の横の椅子に座ると、ふうとため息をつく。

「…ごめんなさい」

母の気持ちを察し、まずは謝る。

「本当です」

顔に、怒っていますと書いてあるかのような母の様子に、明日香はもう一度謝った。

「心配かけて悪かったです。ごめんなさい」

すると母は、はぁと肩で大きく息をしてから話し出す。

「アルバイト始めてから、帰りも遅くなるし。テスト前なのに家にいないし。いてもカリカリデザインばっかり描いてるし。ご飯よって呼んでも気付かないし。進路はどうするのって聞いても、そのうち考えるーしか言わないし」

たたみ掛ける母の言葉にいたたまれなくなり、明日香はだんだん布団を顔の上に引き上げていく。

「挙げ句の果てには、木材が倒れてきて怪我をしました。病院に来て下さいって。もう!そんな危険な仕事だなんて聞いてないわよ?」
「危険じゃない!違うの!たまたまセットに立て掛けてあった木材が倒れてきただけなの。本当に、危険じゃないから!だから、その…アルバイト辞めろなんて言わないよね?」
「言いたいですけど!」
「うっ…そこをなんとか!お願いします!」

明日香はガバッとベッドから起き上がると、正座して頭を下げる。

「ちょっとあなた、そんな急に動いたら…」
「大丈夫!それよりお願いします!私、このお仕事続けたいの。とってもやり甲斐があるし、楽しいの。だから、誰が何と言っても続けてみせます!」

しばらくして、ぷっと母は吹き出す。

「誰が何と言っても続けるなら、お母さんが反対しても続けるって事でしょ?」
「え?あ、うん。そ、そうなるね」
「じゃあ、ここで何言っても意味ないって事ね」

そう言うと母は立ち上がった。

「明日、退院の手続きの時にまた来るから。しっかり休みなさいよ」

そしてドアの前で立ち止まると、振り向いてひと言付け加える。

「お父さんには、お母さんから説得しておくわ」

じゃあね、と出て行く母を、
「ありがとう!お母さん」
と明日香は大きな声で見送った。
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