トップアイドルの恋〜好きになってもいいですか?〜
やがて1階に着き、どうぞと手で促す明日香に、どうも!と嫌味たっぷりに言って歩き出した瞬は、明日香が付いて来ないことに気付いて立ち止まる。

「おい、どうした?」

エレベーターから降りると、やはり電気は全て消えていて、真っ暗だった。

(またお化けがどうとか騒ぎ出すのか?)

仕方なく明日香の隣まで戻ろうとすると、
「あの、私はここで。ありがとうございました」
と頭を下げてくる。

「何だ、急に。まだもう少し暗い中歩くぞ」
「あ、もう大丈夫です。少ししてから帰りますので、お先にどうぞ」
「は?なんだそれ。何言って…」

そう言って近付こうとしたが、いえ、本当に大丈夫ですと、手で制してくる。

(ったくもう。なんなんだよ)

瞬は、じゃ、と言ってスタスタ出口に向かった。

建物を出て少し歩いた時、いきなり木の陰から、きゃっ!と小さな声が聞こえ、女の子が2人駆け寄って来た。

「あ、あの、あの、瞬くんですよね?!」
「きゃー、本物だ!」
「あの、あの、握手…してもらえますか?」

こんな時間までいるのか、直哉達3人が先に車で出てるのに…と思いつつ、ああ、はいと応じ、それじゃあ、と軽く手を挙げて足早に歩き出す。
後ろで女の子達は、悲鳴のような興奮した声で喜んでいる。

やれやれとひと息ついた瞬は、先程、自分を先に行かせた明日香の事を思い出した。

(…あいつ、このために?)

いや、まさかな。と考えを打ち消してブルゾンのフードを深くかぶり、駅への道を急いだ。
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