生まれ変わりの条件
4.99,001人目
その日を迎えたのは、僕が天使業を始めて六十七年目の秋の事だった。
これまでに9万9千人を送ってきたので、今日で最後の一人だ。
リストにある彼女を送れば、僕は人間として生まれ変われる。
手にしたリストに目を据え、死亡者のデータを頭に入れる。最後の一人はおばあちゃんだった。
名前は、西園寺 絹子さんで、歳は九十、死因は老衰だ。
データを見るからに、これまでを清く正しく生き抜き、天寿を全うしたのだと感じ取れた。
写真に映る彼女には優しさが滲み出ている。
僕は彼女が亡くなる自宅まで飛んで行き、眼下に大きな邸宅を見下ろした。
広い区画を高い塀で囲まれ、その屋敷が富裕層である事が窺える。
上着の内ポケットから死亡者リストを取り出した。
【202X年10月8日。午後三時四十八分に自宅の縁側で、眠るように息を引き取る】
手首に嵌め込まれた時計を確認すると、日本時間で午後三時三十分だった。
僕は大きな屋敷へ降り立ち、彼女が居るであろう縁側へと近付いた。