意味不明彼氏
深波は下でうずくまり、咳を激しくこむ。
口元を押さえる手からは、残酷なほどに血が伝っていた。
そしてそんな深波を睨みながら、激しく肩を上下に動かしながら息をする優の姿があった。
「何であんた、千明ちゃんを…ッ!!」
優の顔は真っ赤になっていて…。
胸が締め付けられる。
「…ッはあ?あんたさあ、俺を殴る立場にいるわけ?みいちゃんに殴られるのは許せるけどあんたに殴られるのは…」
深波は一息ついてゆっくりと立ち上がった。
「本気で許せない」
深波の低い声に、あたしの身体は震え始めた。
何が起きるか、予測してたかのように…。
すると次の瞬間、深波は何かを企んだかのような笑みを浮かべ、そのまま優の頬めがけて襲い掛かった。
全てがスローモーションの様に見えてきて。
優がゆっくりと、下へと倒れる。
何が起きたか、脳が理解できるようになったのはずっと後のこと。
「……優…ッ!!」
「殴られるのだけは本当、勘弁。自慢の顔に傷がついちゃうからね。って、もう付いちゃったけどー」
ふわふわとした口調で、そう言った深波。
相変わらず顔を一切変えずに、鏡を持ちながら切れた自分の唇を見て笑っていた。