意味不明彼氏
「ヤダ…ッ!!出ないで…!!」
葵は離れる蓮の腕を強く掴む。
「はあ…っ!?ちょ…、雪…彼女なんだって」
蓮は葵を睨むと掴まれた腕をほどき、携帯を耳に当てる。
雪……?
それが、彼女の名前なの…?
葵の瞳から、一粒の滴が姿を現す。
「…もしもし?」
蓮は冷静を装いながら、南にそう言った。
別にやましいことがあったわけでもないが、なぜか南に申し訳ないような気がした。
『もしもし?今、どこにいる?』
愛しくてたまらないほどの声。
少しハスキーがかかった声。
でも今の南の声は、守ってやりたくなるほどの弱々しい声だった。
何か…あったのだろうか。
「え?あ、あー……。」
少し、考える。
女と2人でいるなんて、とても言えない。
誤解を招くことになる。
だから……。
「今、学校から出たとこ。今、お前ん家向かってる」
……とんでもない嘘をついてしまった。
蓮の中で、罪悪感だけが降り積もる。