臆病な片思い

臆病な片思い

気づくとその人の話ばかりしている。

仕事人間で冷たい感じがするって周りからは思われているけど、実は迷子になった子どもを放っておけない優しい人なんだとか、書類の端っこに時々、書かれているスケッチが物凄く上手だとか、絵について話し出すと止まらなくなるとか、ピーマンが苦手な事を人に知られるのを恥ずかしいと思っている事とか、私だけが知っている情報を得意げに話してしまう。

帰りの電車ではその人の事ばかり考えている。
今日は沢山、名前を呼ばれたなとか、青コーデのスーツが素敵だったなとか、私が淹れたコーヒーを美味しそうに飲んでくれたなとか。

寝る前はその人の姿を思い浮かべる。
鼻筋の通った綺麗な横顔とか、仕事に集中している時のキリッとした顔とか、口元が緩んだ穏やかな表情とか。

そんな事を考えながら眠りにつく。

運がいいと夢にも出て来てくれる。
手をつないで浜辺を散歩していたり、何でもない事で笑ったりして、幸せな気持ちのまま目が覚める。

その人の為ならどんな事でもできる気がする。

でも、これは恋じゃない。
好きになる一歩手前の気持ち。

これ以上は気持ちを大きくしてはいけない。

部下として一緒にいられればそれでいい。
それだけで幸せ。
< 1 / 27 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop