臆病な片思い
「そうか。何も覚えていないのか。まあ、あれだけ飲めばな」

頭上でははっと笑う彼の乾いた声がする。
どうしてか、その笑い声が悲しく聞えた。

「俺の方こそ、調子に乗って飲ませてすまなかった。昨夜は楽しかったよ」

ポンと彼の手が私の肩に触れる。触れられた場所が熱く感じて、追い詰められるように鼓動が速くなる。

動揺しすぎだ。今日の私はおかしい。

「浅川、いつまで頭を下げているんだ。もういいって。俺は気にしてないから」

彼の顔を見られない。今はポーカーフェイスを作れないから。
赤面した顔を彼に見られたくないから。

「こ、コーヒーをお持ちしますから、先に行っていて下さい」
「うん」と言って、彼が去っていく。

彼の気配が遠のいて、やっと気が抜けた。

まともに彼の顔も見られないなんて、思っていたよりも私は大人の対応が出来ない。

こんなはずじゃなかったのに……。

昨夜はシンデレラみたいで、調子に乗り過ぎた。
時間がくれば魔法は解けるんだ。いつもの冴えない私に戻った後の事を考えていなかった。バカだな、私。
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