臆病な片思い


「氷室社長に恋してるでしょ?」

彩香の言葉に凍り付く。

昼休み、社内のカフェテリアで、彩香と別れた後の事を聞かれて、彼と出席したパーティーの話をしていた。

彩香の返しが唐突過ぎて、笑えない。

「上司と部下。氷室社長に対してそれ以上の気持ちはありません」

いつものポーカーフェイスを作る。

「出た。美羽のポーカーフェイス。私は騙されないわよ。もしかして、氷室社長と進展あった? 寝たとか?」

ね、寝た……!
今朝の事を思い出して顔が火照る。

「な、何、言ってるのよ。何もないから」

背中に冷や汗をかく。

「なるほど、社長と寝た訳ね」
「だから、違うって、同じベッドで寝ていたけど、全く覚えていないし!」

テーブルに手をついて、つい前のめりになる。
目の前の彩香が栗色の目を大きく見開く。

「ついに美羽の恋が実ったのか」

一人納得したように彩香が頷いた。
何、この噛み合わない会話。なんかイライラしてくる。
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