臆病な片思い
「違うって。氷室社長の事は何とも思っていないし」
「いい加減に素直になりなよ。社長を好きなんでしょ? 社長の事を話す時、美羽、一番嬉しそうな顔をしているんだよ。私じゃなくても勘のいい人だったら気づくよ」

社長を好き。
その言葉に心臓が熱くなって、脈が速くなる。

「な、何言ってるのよ。あんな軽いヤツ、好きな訳ないじゃない!」

必死に取り繕う。
この気持ちを認めたくない。だって絶対に叶わない恋だもの。

「無理しちゃって、顔に書いてあるよ。”好き”って」

思わず体温が高くなっている頬を抑える。

「認めなさいよ。惚れてるって」
「社長になんか惚れてないってば! あんな軽いヤツ、大嫌いよ! 見た目だけのヤツに誰が惚れるものですか!」

恥ずかしくて、認めたくなくて、心にない事をつい、大声で言ってしまった。
ここは社内のカフェテリアだというのに。

「あっ、美羽……」

急に彩香が青くなり、私の後ろを指で示す。

「何よ!」

振り向くとそこに彼が。
嘘。こんな事って……。

「軽くて見た目だけで悪かったな」

やや引きつった表情で彼が言う。

「あ、あの社長……」

あわあわと口が動くだけで、言葉が出て来ない。
違うの。今のは……。

「面白い話を聞かせてくれてありがとう。浅川が俺の事をどう思っているかよくわかった」

彼は軽蔑するような視線を私に向けてから、立ち去った。
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