臆病な片思い
「君は俺が社長になった時に初めて会ったと思っているだろ?」
私の考えを読むように彼が口にする。

「だって、それ以外には……」
「君、遅れて入社式に来ただろ」
「どうしてそれを?」

入社式の日、会社に来たら見知らぬ子供に泣きつかれた。遅刻ギリギリで、私には時間がなかった。でも、放っておけなくて、その子の両親を探してもらって……。

――ありがとう。

その子の保護者が現れて、確かそう言われて……。

「あっ!!」

子どもの保護者と目の前の社長の顔が重なる。

「思い出したようだな」

さらに頬を緩ませて、彼が嬉しそうに笑う。

あの時の彼はス-ツじゃなくて、カジュアルな服装で、学生みたいだった。
優しい笑顔が印象的で、何だかドキドキしたのを覚えている。

「迷子になったあの子は、社長の子供だったんですか?」
「そうだと言ったら?」

彼は独身だけど、子どもがいたの?

「お子様は元気ですか?」

動揺を読み取られないように笑顔を浮かべる。

「さあな。元気だといいんだが」
「は?」
「俺の子じゃない。オヤジの子だ。愛人との間の……。つまり、俺の異母兄弟だ」
「えっっ!!」
「そんなに驚かなくてもいいだろう」
彼が苦笑を浮かべる。

「だって、今、社長の子だっておっしゃったじゃないですか」
「見たかったんだ。君がどんな表情をするか」

まつ毛の長い目がこっちを向く。

「やっぱり、俺の片思いか……」

さらに彼の口から出た言葉に驚いた。
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