臆病な片思い


美術館に入り、テレビで見たあの絵を探す。

あった!

テレビ見た女性の肖像画……。

柔らかな笑みを浮かべた表情は美しくて、引き込まれる。
タイトルは【片思い】
作者の名前は……氷室啓一。

彼だ。

こんな形で会えるなんて。
彼に会いたい。どこに行けば会えるの?

「あの、『片思い』の絵を描いた人に会いたいんです。どちらに行けば会えますか?」

美術館の職員に訊ねる。

「ええーと。その絵の作者でしたら今、ちょうど……」
「今、注目度ナンバー1の若手画家で、『片思い』と題された絵で世間の注目を集める」

どこからか男の人の声がする。

「絵のモデルは作者が恋をした相手で、作者は今も片思いでいるそうだ」

声のした方を振り向く。
ジーパンに紺色のジャケット姿で、最後に会った時よりも少し髪が伸びた彼がいた。

「久しぶり」

目が合うと彼が言った。
その瞬間、弾かれたように彼の方へ駆けた。
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