臆病な片思い
「俺も好きだ」

彼が真っすぐ私を見ながら言った。
嬉しい……。
嬉しくて、目の奥が熱くなる。

「浅川、ごめんな。あの時の俺は君に気持ちを伝える勇気がなかったんだ。社長としても君に心配される程、半人前だったし、周囲の顔色ばかり気にして自分のやりたい事も満足に出来なかった。いろんな女性とつき合うふりをしていたのも、君の気が引きたくて。俺は臆病な男だったから」

「つき合うふり?」

驚いて瞬きをすると、彼が照れたように笑う。

「ああ、恋人なんていなかったよ。浅川しか見ていなかったから」

知らなかった。そんな風に思ってくれていたなんて。

「私も臆病でした。社長の事が好きだったけど、自分に自信がなくて、自分の気持ちから逃げていました。社長がいなくなって、臆病な自分に死ぬ程後悔したんです」
「俺たち似た者同士だな」
「はい」
「浅川、いや、美羽。初めて会った時から一生懸命な君に惹かれていたよ」
「私も、あなたの側でどんどん好きになっていました」
「もう俺は社長じゃないが、一緒にいてくれるか?」
「もちろん」
大きく頷いた。
彼が笑顔を浮かべ、それから唇が重なる。
胸いっぱいの幸せを噛みしめながら、長いキスを交わした。

終わり
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