臆病な片思い
「か、からかわないで下さい!」

彼から目鏡を取り返そうとすると、面白がるように避ける。

「からかっているつもりはない。浅川は美人だよ。コンタクトにすればいいのに」

「目玉に直接レンズつけるなんて恐ろしい事できません! だから眼鏡でいいんです!」

真っ赤になりながら、彼を睨んだ次の瞬間、彼の可笑しそうな笑い声が響く。

笑われてしまった……。
恥ずかしい。

「浅川は顔に水をつけるのも怖がったりするタイプか?」
「水は大丈夫です。子どもの時はスイミングスクールに通ってましたから」
「俺もスイミングやってた。奇遇だな」

笑いながら、「悪かったよ」と言って、彼が眼鏡を返してくれる。
急に優しくなるからズルイ。

「失礼します」

眼鏡をかけて、彼から逃げるように社長室を出る。
秘書課のオフィスの自分の席に座り、ほっと一呼吸をつく。

偶にある彼との、こういう会話にどうしたらいいのかわからなくなる。
どこまで、本気なのかわからない彼の言葉に動揺させられる。

きっと彼は面白がっているだけ。デートしたいとか、美人だとか、彼の言葉を本気にしたら、痛い目に遭う。

そう思うのに彼の言葉に胸が甘く疼いている。
自分の気持ちもよくわからない。彼へのこの気持ちは一体何だろう?
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