臆病な片思い


「ねぇ、美羽(みう)。氷室社長ってどんなカンジなの?」

久しぶりに総務の彩香(あやか)と飲んでいる時に聞かれた。

彼は女子社員たちの憧れの的で、よく聞かれる。
昼間の事が過り、頬が熱くなる。

ドーンとビールジョッキをカウンターの上に置いて、隣に座る彩香を見る。

「遊び人で、軽くて、人をからかうのが好きで、子どもみたいな人」
「社長と親しそうだね」

彩香の言葉に心臓がキュッて縮こまる。
親しいだなんて……。

「そうだよね。美羽は毎日社長と一緒だもんなぁ。いいなぁ」
「全然よくない。誰があんな軽いヤツ!!」

社長と親しい間柄だなんて思われたくない。
社内で噂にでもなったら迷惑だ。

「誰も美羽と社長が何かあるだなんて、思ってないよ。何たって、美羽は男が嫌いだもんね」

男嫌い……。
いつの間にかそんなレッテルが貼られていた。
別にそんな訳じゃないのに。ただ、付き合おうとは思えないだけ。

「この間営業の吉田くんにコクられて振ったんでしょ? その前は取引先の人に口説かれていたよね? それなりにカッコイイ人だったけどな。もしかして美羽ってレズ?」

彩香の言葉に目が丸くなる。
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