【受賞】国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
 国王であれば、隣国に足を伸ばすこともある。だが、まだ幼い頃の王女はそれに付き添ったことはない。やっと成人を迎えたジェシカ、これから外交が増えるというその時期である。
「それでね。あなたも一度もお会いしたことのなかった、あのクリスとお付き合いしているわけでしょ? その話を聞きたいと思ったのよ」
 自嘲気味に笑ったかと思えば、今度は何かいたずらを企んでいる子供のように笑ってくる。恐らくジェシカは何かを隠している。だから、フローラの話を聞きたいと言い出したのだろう。
 ただフローラの場合は、お付き合いだ。付き合ってみて、合わないと思ったら別れてもいい、とあの宰相は言っていた。
 それに対してジェシカの場合、縁談を断ることは難しいだろう。いや、断ることのできない話だ。
 彼女に嘘はつきたくない。と、同時にこの縁談に不安を持ってもらいたくない、という思いもあった。
「そうですね。私とクリス様の出会いは、その、まあ。国の政略の一つと言われてしまえば、そうですが。でも、クリス様と出会えてよかったと、今では思っています」
「本当に?」
 ジェシカが下から顔を覗き込んできた。
「ええ。結局、出会うことがなければ、始まりもしないということですね」
「だけど、あなた。あのサミュエルと付き合っていたわけでしょ? 彼を捨ててまでそんなにクリスと付き合いたかったわけ? 国の政略だからって、簡単に付き合っていた男を捨てたわけ?」
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