【受賞】国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
 だけど、フローラだってサミュエルと付き合い始めたのは、彼から告白されて、なんとなく断ることができないと思って、流されてだらだらと、というところが大きい。
 あんなことを言われなかったら、心の中に不満を溜め込んだまま結婚までしていたと思う。
「そうですね。やはり、一緒になってみないとわからないところはあります。ですが、それを許せる相手か許せない相手か、というところが、あるのでしょうかね。少し言葉にするのは難しいのですが。そう、そうですね」
 そうやって言葉を口にしているフローラでさえ、何を言っているのか自分でわからなかった。つまり、同じ行動や言動をされたときに、クリスなら許せるけどサミュエルは許せない、とそういうことだ。
 今思えば、サミュエルとの間にはお互いの気持ちが足りなかったのだろう。お互いにお互いを思いやる気持ちが。
「アリハンスのアルカンドレ第一王子は、とても心の優しい方であると聞いております。ですから、ジェシカ様にもその優しい心を傾けてくださるのではないでしょうか」
「そう、かしら? そう、だといいのだけれど」
 ジェシカは何やらぶつぶつと呟き始めた。
 フローラの立場はジェシカのそれとはもちろん違う。
 フローラは国の政略ではあるが、ダメだったら断ってもいいという逃げ道が残されている。だがジェシカは引き受けたら最後。ダメであっても逃げられない。そもそも逃げ道が無い。
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