【受賞】国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
 ゆっくりとフローラはその手をとった。先ほどまで歪んでいたクリスの顔がふっと和らいだ。だからフローラも安心して、顔をほころばせた。するとクリスは困った表情をした。彼がどうしてそのような表情をするかわからないフローラは少し首を傾けるしかなかった。
 結局フローラは、屋敷の中へと戻されてしまった。だが、いつもと違うのは案内された部屋。
「ここは?」
 フローラが尋ねると、嬉しそうにクリスは答える。
「私の部屋です」
 しかもクリスはしっかりと人払いまで済ませてしまう。お茶をささっと淹れた優秀な執事は、満足したような笑みを浮かべ、一礼して立ち去っていく。彼の屋敷の使用人は、こういうところが優秀過ぎて、フローラとしては非常に困るところの一つでもある。
「では、フローラ。先ほどの話の続きをお願いします」
「あ、はい」
 クリスがフローラの隣に密着するかのように座っているため、あの話をするにはふさわしくないような状況にも見えるのだが、フローラが少し距離を取ろうと思って座り直すと、クリスも少しでも離れたくないというようにくっついて座り直すため、あきらめた。
「あの……」
 やっと本題にはいったフローラは、先ほどのジェシカが隣国へ行く話について、詳しく説明をした。
 途中までは、聞いていません、というような飄々とした表情をしていたクリスだが、話が核心に触れるにつれ、その顔を曇らせる。
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