【受賞】国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
 クリスはフローラに会いたいと思った。だから、彼女が帰宅する前にここを訪れてくれることを心の片隅のどこかでほんのりと期待していた。
 それは裏切られた。
 いいのだ、彼がほんのりと期待していただけだから。期待を裏切られただけ。
 きっと真面目な彼女のことだから、まだ仕事をこなしているのかもしれない。
 だけどそれを誰に確認したらいいのかわからず、クリスは自然とブレナンの元へと足を運んでいた。
 彼女の父親のような存在であるブレナンに、フローラの魔力解放について相談したのはつい十数日前のこと。そして、出された結論はクリスが考えていたものと同じこと。
 とにかく、フローラの力を他の誰にも知られてはならない、ということだった。
 クリスは、ブレナンの部屋の前に立っていた。魔法騎士の一番の古株であり、それらをまとめているブレナンはもちろん個室を与えられている。
 ノルトといい、ブレナンといい、個室を与えられている人間を訪問するのは楽だ。それに引き換えフローラは個室を持っていない。だから、クリスが彼女の元へ会いにいくのは少々問題がある。だから、ブレナンの元を訪れたのだ。
 その扉をノックすると、中から穏やかなブレナンの声が聞こえた。クリスが名乗ると、入るようにと言う。
「クリス殿、どうかされたのか? まあ、そこに座りなさい」
 クリスとしては肝心なこと、つまりフローラの様子を確認できればそれだけで良かったのだが、彼女の父親のような存在から座りなさいと言われてしまったら、それには素直に従う。
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