【受賞】国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
「フローラは、戻ってきたのですよね?」
「やはり、貴殿が気になるのはフローラのことか」
 微苦笑を浮かべたブレナンが、クリスの前にお茶を置いた。いただきます、と言ってからそれに手をつけるクリスは珍しい。
「フローラも無事に戻ってきた。ジェシカ様がおっしゃるには、行きも帰りも魔獣と出会うことなくあのアリーバ山脈を越えることができた、とのことだ。恐らく、フローラの力だろう? そして、それを教えたのは、クリス殿」
「ええ」
 クリスは頷くと、カップをテーブルの上に戻した。
「それで、フローラは?」
「かなり体力を消耗していたようだ。アダムに報告をしたら、すぐに自宅に戻ったらしい。五日ほど休暇を与えるとか、アダムが言っていたような気がするな」
 そう言ったブレナンの目は笑っている。
「そうですか」
 クリスは呟いた。残念なことにフローラは帰ってしまったようだ。
 その帰る前に自分に会いにきてくれるのではないか、という淡い期待を抱いていたのだが、期待は儚く散ったということか。
「寂しそうだな、クリス殿」
 ははっとブレナンは楽しそうに笑った。だが、その目が笑っていないことにクリスは気付く。
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