【受賞】国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
 それを目にしたフローラは、何かおかしいと思った。サミュエルだけどサミュエルではないような。
 この感覚は以前にもどこかでも感じたことがある。どこだろう、と思い出しながらもサミュエルをじっと見据えた。
「そんなことはどうでもいいだろ」
 ふと彼の目の色が変わったように見えた。目の色が変わるというのは慣用的表現ではなく、本当に彼の目の色が変わったように見えたのだ。
 そこでフローラはクリスから教えてもらったことを思い出す。
 魔法の属性の中で、使い方を間違えてはいけないのは『闇』である、と。これは人を呪い、人を操り、人を魅了する属性。だからといってこの闇魔法は完全に悪ではない。何しろ、魔獣討伐では有利に働くこともある。
『一番簡単な方法は、人には使わない、ということですね』
 クリスは笑いながらそう言っていた。闇魔法は魔獣に向かって使い、けして人には使わない。
 だけど、目の前のサミュエルは、何かがおかしい。
「サミュエル。私たち、別れたよね? 結婚できないって言ったよね? もう、別れて半年以上経つよね?」
「別れた? 俺とお前がか? いや、別れて……。俺はお前と結婚したいと、ずっと……。いや、別れた。お前から、結婚できないと言われて、それで……。そうだ、だからあの男からお前を奪おうと思って……」
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