【受賞】国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
 いつからそのようなことになったのか、ということをノルトは追究しようとしていたのだが、二人ともそのような記憶が無く、どれが自分の意思でどれが操られた意志なのかもわからないような状態であった。その他にも数人、記憶や発言が操られた形跡があった。
 クリスが調べていたのは、過去の闇魔法の主の家系図である。先祖にその主がいると、何代もあとに突発的にその力が目覚めるかもしれない、という仮説を立ててみたからだ。その仮説から該当しそうな人物を絞り込もうとしていたところ。
 ちらりと時計を見ると、会議という名の会合の時間が近づいていることに気付く。
「フローラ」
 毛布を頭からかぶって横になっている彼女の名を呼んでも、彼女はぴくりとも動かない。
「不本意ながら、私は会議に行かねばなりません。けしてここから出ないようにお願いします」
 そう声をかけてみたものの、その声が彼女に届いているかどうかもわからない。
 クリスは小さく息を吐き、名残惜しそうに彼女の塊を何度も見つめてから、部屋を出て行った。もちろん、外から鍵をかける。眠っているフローラがいるからだ。
 フローラも闇魔法の使い手に狙われている。

 フローラはうつらうつらと浅い眠りと現実を繰り返していた。クリスの声が聞こえたような気がしたけれど、それに返事はしていない。夢の中から引き戻されるような感じになるから。浅い意識の中を漂っているのが、非現実的で心地よいのだ。
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