【受賞】国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
27.彼の力
 ちっ、と激しく舌打ちをしたのはアダムである。
「鍵がかけられている。おい、誰か鍵を持ってきているか」
「それが。第一宝物庫の鍵が見当たらないそうなんです」
 アダムは部下の報告に眉間に皺を寄せた。いかにも、というこの状況。誰かがジェシカを第一宝物庫に閉じ込め、いや、むしろその奥にある冷牢に閉じ込めた、というわけだ。
 そのやりとりを聞いていたクリス。
「失礼」
 第一宝物庫の扉の前に立つ。
 鍵は鉱石からできている。鉱石は土の成分にも含まれている。その土から必要な成分を抽出し、この鍵穴に合うような形を作ることができれば――。
「おいおい、クリス殿。なかなか面白そうなことをやっているな」
 その声の主はブレナンであった。この騒ぎを駆けつけて、ここにやって来たようだ。
「ブレナン。この扉を開けることはできるか?」
 アダムが尋ねるが、ブレナンは首を横に振る。
「今はクリス殿を信じるしかなさそうだな」
 無理やりこの扉を壊すと中の(トラップ)がいろいろ働く仕組みになっている。誰がこのような仕組みを作ったのか。もちろん、魔導士団に所属する魔導士たちなのだが、それの解除というのは中に入らなければ行うことができない。つまり、扉のこちら側にいる以上、正攻法でこの扉を開けなければならないということだろう。
< 197 / 254 >

この作品をシェア

pagetop