【受賞】国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
 だけどクリスであったとしても、魔力はかなり消耗している。ここにフローラがいて、濃厚な口づけを交わしてくれたのであれば、その魔力もすぐに回復するのだが。残念なことにその相手はあの冷牢に閉じ込められているのだろう。
 クリスは気付かれぬように小さく息を吐いた。先ほどと同じように手の中に魔力をため、この扉に合う形の鍵を具現化する。
 ほう、とブレナンは息を吐いた。彼の魔力が通常の十倍と言われることにも納得がいくように、感心している様子。
 いくつもの視線がクリスの動きを見守っていた。その彼らの息遣いがいつもより大きく聞こえてくるから不思議だった。
 カチャリという金属音。
 それを聞きつけたアダムはその扉を押し開き、細くて暗い通路を駆けていく。これで、恐らく冷牢に備え付けられている排水溝が一気にその機能を果たすはずである。
「団長、こちらの扉は?」
「それはぶっ壊しても問題は無い」
 問題が無いわけではないのだが、数年、使用されることがなかったこの冷牢だ。今すぐ必要になるようなことは起こらないだろう。その時がくるまでに、直しておけばいい、とアダムは考えていた。
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