【受賞】国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
 あのクリスがどうやら女性とお付き合いをしているようだ、というのが密かに噂になっていた。その相手を知っている者と、相手を知りたいと思う者と、それは彼の妄想じゃないのかと思う者と。噂というものは、尾ひれがついて面白おかしく伝わっていく。だが、その噂の一部に真実が紛れていたりもするものだ。
 それが、ナッティの耳にも届いたのだろう。
 四肢を拘束されているわけでもないナッティは、その手でフローラの胸座を掴んだ。
 クリスはあのナッティという侍女を思い出した。
 家柄、容姿、能力、どの全てをとってもクリスと釣り合う人間は自分の他にいない、と言っていたあの令嬢。クリスが突き放したあの女であることに。
「ねえ、知ってる? クリス様のお相手をするには、私のように魔力が無いと務まらないのよ? あなた、ただの護衛騎士でしょ。あなたのような人間がクリス様にふさわしいとは思えないのよ」
 クリスは顔をしかめた。あのときは確かにあの女から魔力を感じることはできなかった。だが、今は違う。どす黒いような、全ての色を混ぜ合わせたような歪んだ色の魔力が、彼女から溢れ出ようとしている。隣にいる女性魔導士が表情を歪めているのは、かけられている術を破られそうになっているからかもしれない。
「おい、二次元」
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