【受賞】国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
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 フローラはクリスを連れて父親の元を訪れていた。父には数日前に手紙を出していた。
 フローラが生まれ育った家は、このデトラースの南の外れの小さな村にある。だが、屋敷は父の甥に譲り、その離れに自身はひっそりと暮らしている、と父の手紙にあった。フローラがあの家を出てすぐに、跡継ぎのことを考えたらしい。父はフローラに戻ってこいとも戻ってくるなとも言っていなかったことを思い出す。あの家に縛りつけたくない、という思いがあったのだろう。
 さて、フローラが生まれ育った場所であるが、はっきりいって田舎である。このような田舎だからこそ、聖人(きよら)を匿うことができたのだろうなと、クリスは思った。
 田舎ではあるが、彼女が生まれ育った屋敷とそしてその離れはそれなりのものであった。
「ただいま、お父さん」
「フローラ、か? 久しいな」
「手紙、きちんと読んでくれた?」
「ああ、もちろんだ。結婚したい相手がいるんだってな」
 その会話を聞いている限りでは、クリスは二人の仲が悪いような印象は受けなかった。
「ええ。どうしてもお父さんに会わせたくて。ええと、こちらの方です」
 フローラもクリスのことをどう紹介したいいかがわからなかった。数年ぶりに会ったのに、いきなり結婚しますというのも、父親を驚かせるのではないかと思っていたから。
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