【受賞】国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
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「クリス様。どうか私と結婚してくださいませ」
 どこかのご令嬢に付きまとわれている魔導士のローブを纏う男。名をクリスと言う。長い黒髪も魔導士である証の一つ。
 クリスはその令嬢に近づき、ガシッと彼女の顎を掴んだ。甘い雰囲気も無く、そこに流れる空気は緊張。茶色の瞳に睨みをきかせ、クリスは彼女の顔を覗き込んだ。
 彼女から伝わってくる感情は恐怖。
「どの口がそのようなことをおっしゃるのでしょうか?」
 まるでひよこ口のようになってしまった令嬢は、それでも言葉を紡ぎ出す。
「家柄。容姿。能力。そのすべてをとっても、クリス様に釣りあう人間は私の他にいないと思うのですが」
 ひよこ口のまま、それだけ喋ろうとする根性は見上げたものだ。
「ですが。あなたには、私の子を孕むだけの魔力が無い」
 ご存知ですか、とクリスはその手を離し、令嬢を突き放した。
 口は元に戻った彼女ではあるが、勢い余って尻もちをついた。
「魔力の有る者の交わりは、お互いに精を放出すると同時に、魔力も放出する。魔力の無い者はその魔力に引きずられ、生命力を放出する。あなたのような魔力の無い者が、私のような魔力の強い者と交わったのであれば、精を放出した瞬間に、一発でその生命力が枯渇しますよ? つまりあなたが死んでしまうのが目に見えておりますが。それでも、よろしいのでしょうか?」
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