【受賞】国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
「邪魔者がいなくなりましたので、どうぞごゆっくり、魔導書をお選びください」
 クリスがフローラの顔を見て言ってみたのだが、そんな彼女は口をぽかんと開けていた。
「フローラ。どうかしましたか? フローラ」
 クリスに名を呼ばれ、やっとフローラは我に返る。どうやら、ちょっと呆けていたらしい。それもこれもクリスが結婚とか言うからいけないのだ。
「そういえば、フローラは魔法騎士でしたね」
 クリスは五十年前の魔導書を手にしながら、背中合わせでいるフローラの方を振り向きながら、声をかけた。どうやら彼女も、自分が得意とする属性の魔導書を手にしているようだ。
「はい」
「フローラの魔法属性は、やはり水なのですか?」
 それは彼女が手にしていた魔導書からクリスが推測したものだ。それから、彼女の髪の色と。
「はい」
「他の属性も扱えるのですか?」
「他、ですか。そうですね、土と炎を少々」
 その答えに、クリスは眉をピクリと動かした。だが、フローラはそれに気づかない。
「でしたら、こちらの魔導書の方がいいかもしれませんね」
 クリスは腕を伸ばしてフローラの頭の上から一冊の魔導書を手にした。それをフローラに手渡そうとすると、彼女は驚いてクリスの顔を見上げた。
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