【受賞】国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
 そして、初めて魔法をきちんと教えてもらったフローラにいたっては、何が普通で何が異常であるかもわかっていない。後日、クリスがノルトに惚気たことで発覚する事実である。
「そろそろ、お腹が空きましたね」
 クリスが口にしたときに、優秀な使用人の一人である執事が、ちょうど二人の様子を見にきたところであった。クリスの視線から状況を察した彼は「食事の準備が整いました」とだけ言う。
 クリスはそれに満足そうに頷き、フローラの手をとって屋敷の中へと戻った。
 それを見送る執事の心の中は、十人の小人たちが小躍りしている気分だったらしい。と、同時に早く大旦那様にも報告をせねば、とでも思っているのか、顔にはほくほくとした笑顔を浮かべていた。

「あのクリス様」
 繋がれた手から感じるのは互いの体温。
 クリスは隣のフローラを見下ろした。
「どうか、しましたか?」
「あの……。前、お約束した……。お菓子ですが」
 フローラの言葉でなんとなく察するクリスではあるが、やはりその言葉の続きはフローラ本人の口から聞きたい。だから、彼女の言葉をじっと待つ。けして彼女を急かすようなことはしない。
「お持ちしましたので……。あの、よろしければ、と思いまして」
< 60 / 254 >

この作品をシェア

pagetop